2025年9月3日(水)~9月9日(火)、東京・すみだパークシアター倉にて上演される舞台『Belleville』が、日本初上演にして注目を集めている。
フランス・パリ東部に位置し、多様なルーツを持つ人々が暮らすベルヴィーユ地区を舞台に、新生活を始めるアメリカ人夫婦とセネガル系移民の大家夫婦による繊細でスリリングな心理サスペンス。現代アメリカ演劇を代表する劇作家エイミー・ハーツォグによる本作を下平慶祐が翻訳・演出し、精緻な会話劇と心理描写により人と人との関係の在り方を描き出す。
実力派キャスト4名が集結し、小劇場の濃密な空間で移民、夫婦、共同体といった現代的なテーマを問いかける意欲作だ。
「Sparkle web」ではアメリカ人夫婦の夫・ザックを演じる松村龍之介と、彼らと同じアパートに住む大家夫婦の夫・アリウンを演じる定本楓馬にインタビュー。
共演を重ね厚い信頼を寄せ合う二人に、本作の魅力や役者としての互いの印象などたっぷりと伺った。

interview
本作は日本初上演ということで、まずは台本を読んだ時の印象からお伺いしたいです。
松村:正直、初めて読んだ時はよく分からなかったんです。本当にざっくり言うと、「何を伝えるべくして書かれた作品なんだろう?」という感じで。内容が分からないというより、作品のテーマみたいなものが掴みきれなくて。何回か読んで「ああ、こういうことなのかな」って思いながら稽古に参加したのを覚えてます。
稽古に入ってから、演出家のカルビン(下平慶祐)さんや他の皆さんの意見を聞いたり、自分で演じたりする中で、少しずつ掴んでいった感覚があります。最初は本当にぼやけてました。
下平さんもX(Twitter)で「ザックは多くの人には理解されないかもしれない。台本だけでは心理が分からない役」とおっしゃっていました。ただ松村さんが演じることで「途端に人間が生まれる」と評していました。
松村:そうなったらいいですね! そのつもりでやっているんですが……。まずは自分がどれだけ理解できるか。自分が理解を深めれば深めるほど、お客さんが理解できる範囲が広がると思うので。ザックの一番の理解者でありたいと、ずっと思っています。
定本:僕も最初に台本を読んだ時は、ごく普通の日常が淡々と描かれているようなイメージで。最後はいろんな出来事が起きるんですけど、それまでは本当にありふれた日常が続いていく感じがして、「これをどう伝えるんだろう?」ってすごく悩みました。
でも、稽古が始まってみんなと話していく内に、この些細な出来事が大きなものに繋がっていくのを感じて。すごく繊細なお話なんだなと思いました。

稽古で実際に演じてみて、本作にどんな面白みを感じていますか?
松村:なんて言うんでしょう……、相手を理解しようとする時間が、すごく楽しいです。ザックを演じていて、相手の意図や考え方、行動の理由を理解しようとする時間。役として相手を理解しようとしている瞬間がすごく楽しい。
人って他人への情報の渡し方がすごく足りないと思うんですよ。自分では120%分かっていても、その熱意で相手に対して伝えるわけではないので、10%、20%くらいで「分かってよ」って言う人も多いし。単純に伝え方が下手で、100%の熱量で伝えようとしても全然伝わらない人もいたり。受け取る側もセンスが合わなかったりアンテナを立てていなかったらキャッチできないですし。
ザックと(ザックの妻の)アビー、アリウンと(アリウンの妻の)アミナもそんなところがあると思っていて。だから役として、舞台上で相手を理解しようとする、自分を理解してもらおうとする、その時間が楽しくてしょうがないです。理解してもらえないんですけど(笑)、でもそれが面白いです。
定本:僕は、稽古していて「同じお芝居になった日が無い」という感覚ですね。だからこそ何が正解か分からない怖さもあるんですけど。でも逆に言えば、いろんな正解、無限の選択肢があるということで。みんなで「どれがいいかな?」って探していくこの作業がすごく有意義だなと感じています。
僕の出番はザックやアビーと比べると少ないんですけど、それでも自分が出ているシーンの感じ方次第で、結末に大きな影響を及ぼしているような感覚があって。いい意味で本当に気を抜けないですし、ずっと集中していなきゃいけない作品だなと思います。

まつむら・りゅうのすけ
1993年12月28日生まれ、岩手県出身。最近の主な出演作に、舞台「文豪とアルケミスト 紡グ者ノ序曲(プレリュード)」(青年 役)、舞台「ノンセクシュアル」(村山蒼佑 役)、『ワールドトリガー the Stage』ガロプラ迎撃編(柿崎国治 役)など。2025年10月4日より舞台『星列車で行こう』への出演を控える。X(Twitter)
お話を伺っていると、役者の皆様に任せられている余白が広いように感じるのですが、それは下平さんの演出によるところも大きいのでしょうか?
定本:「こうしてほしい」という演出も要所要所でありますが、どちらかというと「今の皆さんはこう見えていましたよ」という伝え方が多いです。「そう見えたら、このお話はどうなる?」という話し合いになることも多くて。だから自然と考えさせられるんですよね。自分はそうしているつもりじゃなかったのに、「こう見えていたんだな」ということを客観的に教えていただけるので。そういうところを指摘してくださるので、いろんな発見があって悩みが尽きないです。いい意味で、やればやるほど深みにハマっていく感じです。
松村:下平さんは、第一にまず役者の状態をすごくよく見てくれていますね。その上で「今こう感じた」、「こう思えた」といったことを客観的な目線で伝えてくれるんです。だから自分を客観視する大きなヒントになる。意図しないズレがあれば「なんでそうなったんだろう?」と考える機会になるし、自分の意図通りに見えていれば安心材料にもなる。下平さんは僕と同い年なんですけど、正直もっと年上であってほしかったです(笑)。
定本:ふふふっ(笑)。
松村:でも同い年だからこそ、よりすごさが分かるというか、リスペクトも強まりますね。「ああ、同い年でその言葉の積み方が出来るんだ」とすごく感心してしまいます。
センスとか芸術的な表現力に秀でている方ってたくさんいると思うんですが、相手への伝え方やオーダーの仕方にその人の賢さがすごく出ると思うんです。下平さんの言葉にはそういった賢さや思いやりが詰まってて、「ちゃんと言葉を扱ってきた人なんだな」と感じます。……ごめんなさい、ちょっと褒めすぎかも(笑)。
定本:本当に言葉の引き出しが多くて、今見えているものをこと細かに伝えてくださるので、すごく勉強になりますね。

さだもと・ふうま
1995年11月23日生まれ、北海道出身。最近の主な出演作に、MANKAI STAGE『A3!』シリーズ(月岡 紬 役)、舞台『怪人21面相』(鳥羽山基 役)、宮下貴浩×私オム プロデュース 第9回公演 舞台『霧』など。2025年10月10日より舞台「いつかアイツに会いに行く」(八千草則人 役)への出演を控える。X(Twitter)
今作の舞台・ベルヴィーユ地区はパリの中でも移民が多い地域。アメリカ人のザック、セネガル系移民のアリウンを演じる上で難しさはありますか?
松村:僕は「難しい」と思わないようにしています。そもそも海外の表現が昔から好きで、邦画より洋画を好んで観ていたり、以前英語でお芝居をさせていただいた時もすごく心地良かったんです。海外の戯曲に触れることってこれまであまり無かったんですが、今回の戯曲も表現やセリフの言い方など、すごく自分にしっくりきている気がしていて。「難しい」というより、「もっとやりたい」と思える感じですね。
定本:僕は「むずい」と感じてます(笑)。まず話の聞き方から指摘されたんですが、日本人って相槌をたくさん打つけど、海外の方は人の話をしっかり聞くから、人が喋っている時に「うん、うん」とか「そうそう」みたいな相槌を入れないらしいんです。それをすると日本人っぽく見えちゃうかもね、と。
あと「海外の方はボディランゲージが多い」という思い込みで身振り手振りを大きく表現すると、「いや、フランス人はあんまり身振り手振りしないし、言葉の抑揚も平坦なんだよ」と教えていただいたり。自分の”当たり前”が通用しない部分が多いですね。でもやっぱり演じることで“そこに生きている人”に見せたいので、その説得力をどう出すかが難しいです。

先ほどのお話にもあった通り、今作ではお二人の演技によって話のニュアンスも変わっていくほどの繊細なお芝居が展開されるかと思います。お二人は過去、映像や舞台で共演経験がありますが、改めてお互いの役者としての印象をお伺いできますか?
松村:楓馬本人にも以前言ったことですが、年下とか関係なく心からリスペクトしている人です。普段の居方も、稽古場や撮影現場での姿勢も、仕事に対する向き合い方もパフォーマンスも本当に隙が無くて。でもたまに見せる隙というか、可愛さにみんなやられるんです(笑)。それが楓馬のやり口なんですよ!
定本:いやいやいやいや! 計算みたいな言い方しないでよ(笑)。
松村:本番前や撮影前、シーンに入る前の楓馬の顔も好きですね。「あ、集中しているな」っていう。目がグッとなっている楓馬の顔が好きです。
定本:それはそういう役だったというのもあると思うんですけど(笑)。
松村:そういう真面目さと、話しているとたまに出てくる可愛さのギャップにみんなやられてるんですよ。良くないです(笑)。
下平さんも「(定本は)時々隅っこで小さくボケます。そのギャップが周りを虜にします」とポストしていましたね。
定本:ボケているつもりは全くないんですけど(笑)。でも、そうですね……無意識に虜にしているのかも(笑)。
松村:あはははは!
定本:僕が龍之介くんに出会った頃から思っていたのは、「本当に懐の広い方だな」ってイメージです。撮影の待機時間に気軽に話しかけてくださって、そこに怖さが一切無くて。
初対面で「よろしくお願いします」から「普段は何やってるの?」みたいな会話の入りとかめっちゃ怖いじゃないですか!?(笑) でも龍之介くんにはその怖さが一切無くて、「この人なら自分の思っていることを言っても大丈夫かな?」って思わせてくれて。プライベートのこともお芝居のことも遠慮せず話せる雰囲気があるので、お芝居でも緊張せずに思ったことを素直にぶつけられる。一緒にいてすごく居心地がいいです。
松村:ありがとうございます(笑)。自分は結構壁を作るタイプなんですけど、楓馬は“そもそも壁を作る必要なんて無い人”という感覚で。初共演の時からすごく癒やされてました。今では逆に甘えてます(笑)。
Xでも「最近の僕の癒やし」とおっしゃってましたね。
松村:はい、今回もマジで助かってます。(共演相手が)楓馬で良かった~!って(笑)。
今回は4人芝居ということで、少人数だとより関わりが増えますからね。
松村:4人の中に一人、とんでもない暴君がいたら、めちゃくちゃ泣いてたかもしれないです!(笑)
定本:いやいやいや(笑)。でも、昨日は休みだったので、ずっと新庄剛志監督の動画を観てて。
松村:ビッグボスの?
定本:ビッグボス、すごいな~!って。だから今日の稽古ではビッグボスみたいに暴れてやろうかなって思って来たんですけど(笑)。
松村:暴れるってどういうこと!? 物理的にじゃないでしょ?
定本:物理的にじゃないです(笑)。あの方は本当に他人に遠慮が無いなと思って。自分が楽しいって思ったことを信じて突き進む人なんですよね。もちろん膨大な知識経験を積み重ねた上でそうしてる方なので、もう確実に“努力の人”なんですけど、その心意気がすごいなって。
夜中に新庄さんの動画を観たら止まらなくなっちゃって、もう3時間くらい観ていて!
松村:じゃあ、今日は脳味噌ビッグボスで来てるわけね?
定本:はい、今日はビッグボスでお願いします(笑)。
松村:俺はまだその背景知れてるからいいけど、他の二人は「えっ!? 楓馬くん?」ってなるよ(笑)。

お二人とも原作のある舞台に出られることも多いと思いますが、比較すると今作は事前情報が少なかったり、「ちょっと難しい内容なのかな?」と感じている方もいるかと思います。今作は配信も無いとのことですので、そういった方々の背中を押して劇場に足を運んでいただくような一言を最後に頂けますでしょうか?
定本:あらすじを読むと重たい話に思えるかもしれませんが、全然そんなことなくて。「馬鹿だな」って思えるシーンや、「こいつらイチャイチャしやがって!」みたいなシーン、クスッとできるシーンもたくさんあります。でもそういう人間同士の関わり合いがどんどん交差していく中で起きていく物事があって……。このあらすじだけじゃ伝わらない面白さがあって、僕は最初の本読みが一瞬に感じられるくらい、その世界観に入り込む感覚がありました。それぐらい繊細で面白くて考えさせられる作品なので、気になった瞬間にチケットを取っても絶対に後悔させないです! ぜひ楽しみにしていてください。
松村:原作が無い分情報が少ないですが、「どんな作品なんだろう?」って状態で足を運んでもらった時の、キャッチの仕方って全然違うと思うんです。その“劇場に足を運ぶ”というアクション、そこだけなんですよ! 楓馬も言ってましたが本当に後悔させないというか、皆さんを満足させられる役者陣のパフォーマンスと熱量と技術とパワー、そして原作の面白さは揃ってるので。来たら絶対楽しいです!
僕、サウナ好きなんですけど、行くまでが面倒臭いのでいつも行かないんですよ(笑)。でも誘ってくれる友達がいるので、10回誘われたら1回行くんですけど、行ったら「やっぱりサウナいいな~」って思えるんです。
定本:あははは!
松村:“行ってみたら結局楽しかった”って経験は絶対皆さんあると思うので、この舞台もそれだと思ってください! 来てほしいな~!
定本:はい、ぜひ来てください!
information
『Belleville』
【日程】2025年9月3日(水)~9月9日(火)
【会場】東京・すみだパークシアター倉
【作】エイミー・ハーツォグ
【翻訳・演出】下平慶祐
【出演】
アビー 役:田上真里奈
ザック 役:松村龍之介
アリウン 役:定本楓馬
アミナ 役:三田美吹
【チケット】
当日引換券:発売中
カンフェティ
公式サイト
X(Twitter)
check
定本楓馬 掲載
『Sparkle vol.55』発売中

内容:MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~WINTER 2024~ 月岡 紬 役
インタビュー+コラム&撮り下ろしグラビア
巻末綴じ込み付録:ツヤツヤ厚紙ピンナップ
グラビアでは“温かな冬”をテーマに、ふわふわもこもこな定本さんを
— 雑誌『Sparkle』vol.61発売中:特典情報は固ツイ参照 (@Sparkle_stage) January 23, 2024
インタビューでは月岡 紬 役として初の冬組単独公演
MANKAI STAGE『A3!』ACT2! ~WINTER 2024~ へ臨むお気持ちを伺いましたhttps://t.co/ea9GLRQuVy#Sparkle55 pic.twitter.com/YzJFzqEAnZ
credit
テキスト・撮影:田代大樹