毛利亘宏(少年社中)の脚本・演出により、小説家アーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズシリーズ」を二人の俳優が朗読劇として上演するリーディングシアター「シャーロック・ホームズシリーズ」『緋色の研究』『四つの署名』が、東京・サンシャイン劇場にて上演中だ(2024年5月12日(日)まで)。
「Sparkle web」では5月12日(日)17:00公演『四つの署名』でシャーロック・ホームズを演じる市川知宏に開幕直前インタビューを敢行。
誰もが知るシャーロック・ホームズというキャラクターを演じるにあたり市川がどうアプローチしていくか、また「あまり経験が無い」と語る朗読劇への臨み方、稽古を通じてワトソン 役の鈴木浩文から感じたことなど、本作の魅力をたっぷりと語ってもらった。
さらに現在、テレビ朝日開局65周年記念 木曜ドラマ『Believe-君にかける橋-』に出演中の市川に今後の見どころや、映像と舞台それぞれに感じる芝居の魅力、今後の俳優としての目標なども伺った。
interview
まずは『四つの署名』への出演が決まった際のお気持ちをお聞かせください。
市川:シャーロック・ホームズという存在はもちろん知っていましたし、このような歴史ある役を演じられる機会を頂けたのはすごく光栄だし嬉しかったですね。同時に、朗読劇の経験が今まであまり無かったので「どんな感じなんだろう?」という不安もちょっとありました。
今回の朗読劇では市川さんと、ワトソン 役の鈴木浩文さんの二人だけで、ホームズ、ワトソンはもちろんその他全ての登場人物を演じます。セリフの量もかなり多いですが、いかがですか?
市川:難しい言い回しも多いですし、事件のトリックなどもその情景が浮かぶように正確に伝えないといけない。この前、稽古をしたのですが、いつも以上にテンポや声色などに意識して演じないといけないなと感じました。初めは「あんまりゆっくりやりすぎると飽きちゃうかな」と思ってテンポ良く演じようとしていたら、演出家さんが「もうちょっとゆっくり情報を提供してあげて大丈夫ですよ」っておっしゃってくれて。確かに、テンポ感を気にしてセリフ回しを速くしても、結局お客さんがその情報を聞き取れなかったら意味を成さないので、ちゃんと演出家さんに見ていただいて色々なアドバイスを頂けて良かったです。その辺りの、演じる方と観る側のギャップをもうちょっと埋めないといけないなって思いましたね。
稽古を行ってみて感じた面白さなどはありましたか?
市川:二人とも本役(ホームズ、ワトソン)がある上で、他の役をやる時に演技の振り幅を出せるのはすごく楽しい作業でした。楽しみつつも、「声優さんはすごいことをしているんだな」って感じましたね。〝演じる〟ということは同じでも、ちょっと意識するところが違うんだなって。でも、その技術は自分のお芝居にも絶対活きてくることだと思うので、大切な作業をしているなって感じながら演じていました。
あと、どうしても台本を外してセリフを言いたくなっちゃう時があるんですよ。でもそれだと〝朗読劇〟という枠組みから外れちゃうので、そのバランスが難しいなと感じました。
やっぱり相手の方と目線を交わしたり、台本を離してお芝居をしてしまいたくなる?
市川:そうです。どうしても相手の方と共有したくなってしまって。でも演出家さんからは一応「たまには相手に目線とか送ってもらっても大丈夫です」と言われているんです。とはいえ、やりすぎてもいけないなと。
あと、ト書き(※台本上に書かれた、場面や状況を説明する内容)の部分も自分たちで読むんですが、例えば「ホームズは腕の袖をまくって」とか書いてあるんですけど、それもどこまで実際にやっていいのか。そういうことを考えるのがすごく新鮮でしたね。
ということは、演じ方など役者の皆様に任せられている部分が大きいんですね。
市川:そうですね。稽古の段階から「人それぞれ全然違うので、市川さんが思うホームズ像でいいですし、自分の好きなように演じてみてください」と、任せられている部分が大きいなと感じました。でもあんまり自由度が高すぎても、その分選択肢がありすぎて悩みどころではありますね(笑)。僕の思うホームズ像と、鈴木さん演じるワトソンとの関係を一緒に作っていきたいなと思っています。
シャーロック・ホームズというこれまで数多の役者が演じてきたキャラクターを、市川さんはどのように演じたいですか?
市川:頭でっかちで融通が利かない気難しさもありつつ、でもその現実主義者なところがどこか憎めなくもあり、愛らしい人物に見えたらいいなって思っています。嫌なやつにも思えるけど、やっぱり愛すべき人という風に見えるのが理想だなと思ってますね。
ワトソン 役の鈴木さんとのお芝居はいかがでしたか?
市川:鈴木さんとは初めましてだったんですけど、とても人当たりが良くて柔らかな印象の方だったので安心して稽古に臨むことができました。稽古でも「もうちょっとこうしてみましょう」とか言ってくださったり、ちょっとしたアドリブのシーンがあるんですけど、そこでも「こういうのどうですか?」って提案してくださったり。鈴木さんのおかげでコミュニケーションをスムーズにとることができたので、本番でも頼りにさせていただけたらと思っています。
鈴木さんのお芝居に驚かされたり、ご自身のお芝居を引き出してもらったところなどもありましたか?
市川:今回は僕ら二人ともワトソン、ホームズ以外の役をやるんですが、鈴木さんはワトソン 役以外の比重が大きくて、中には女性の役も出てくるんです。その女性の役が声色も言い回しもめちゃくちゃ上手で驚きました。他の役へのアプローチや役ごとの差のつけ方など、一つ一つにすごく学ばされましたね。
あと、僕は初め台本の文字を結構追っちゃってたんですけど、鈴木さんが台本を読みつつこっちにも視線を送ったりとすごく器用に演じられていて。僕ももっとアイコンタクトを取ったり、コミュニケーションを取りながら演じなければと思いました。
市川さんは映像作品と並行する形で舞台への出演もコンスタントに行ってきました。映像でのお芝居と比較した、舞台ならではの面白さや難しさなどはどのように感じていますか?
市川:何よりも一番、目の前にお客さんがいるということが大きいです。舞台はお客さんと一緒に作っている感覚がすごく強い。やったことに対してダイレクトにリアクションが返ってくるので、もちろん怖さもあります。ミスができない。映像はどうしても最終的には「ミスしてももう一回撮れる」という保険みたいなものがありますが、舞台の方がミスできない分、度胸がつきます。そして一つの役を演じるのに大体1カ月くらい時間を掛けるので、より役を深められる作業というものは舞台ならではのものだなと思いますね。
あとは映像って例えば役者さんが二人いたら、その二人のやり取りを切り取ってくれるじゃないですか。見せたい部分をクローズアップしてくれる。でも舞台って観る人はどこを観ても自由だから、相手役を通しつつ見せたい部分をお客さんに伝えるためにはどうしてもパワーが必要になってくると思います。
これまでに出演されてきた舞台で、市川さんにとってターニングポイントとなった作品はありますか?
市川:去年の夏にやった、TSP NextStage「これだけはわかってる THINGS I KNOW TO BE TRUE」という作品です。海外の戯曲で家族の姿を描く話だったんですけど、その舞台が僕はすごく楽しくて。というのは、舞台って大体10公演以上あるものが多いんですけど、やっぱりどこかで前日の公演にもやったことだったり、稽古でやったことをなぞっちゃう瞬間があったりするんです。
でもその舞台は毎公演すごく新鮮に演じることができて! 毎回毎回、相手の方から返ってくるものをすごく感じ取れた瞬間があって、それにより自分のアプローチも変えることができた。多分、今までは僕に余裕が無くて相手の役者さんからもらったものに反応し切れてなかったと思うんですけど、この時はそういったものを感じ取れる余裕があったような気がします。「余裕」と言うと悪く聞こえてしまうかもしれないですが、集中力はキープしつつ変化を感じ取れる余裕を持つことができた。それはとても大事なことだなと思ったんです。
それまでの舞台では稽古で積み上げてきたものを、本番でいろんなことに気を取られてしまい僕自身が崩してしまっているような感覚があったんですが、その舞台では稽古場で得たものをしっかり活かしつつ、本番に臨むことができた。新しい舞台の楽しさを感じられたんですよね。
今回の朗読劇でもまた新たに得るものがあるかと思いますが、市川さんは今作に臨むにあたり、今どんなことを大事にしていますか?
市川:やっぱり僕は台本を持ちながらでも、少しでも多くの瞬間に相手役の方と繋がっていたいし、その意図を切らさずにやり切りたいなと思っています。あとは朗読劇ということで、噛まずにやり切りたいですね。「噛んじゃったらどうしよう」とかやっぱり考えちゃうんですけど。
どうしても通常の演劇と比較してセリフの比重が大きいですからね。
市川:そうなんですよ。声でしか伝えられないから、そこはやっぱり責任としてノーミスでやりたいという思いがあるし、やり切れたらまた新たな自信になるだろうなって思っています。
今作をきっかけに、新たにこの『四つの署名』という古典的名作に触れる方もいるかと思います。市川さんがお客様に期待してほしいポイントはどこですか?
市川:やっぱりミステリーなので、「こういうトリックなんじゃないか」とか「こんな犯人なんじゃないか」って一緒に推理していただくのも楽しいと思います。「難しい話なのかな?」って思われるかもしれないですが全然そんなことないので、変な不安とかは抱かずに気軽に観に来ていただきたいですね。
あとはやっぱりホームズとワトソンの関係性、あのバディ感って、見ていてなんかほっこりすると思うんですよ。二人の関係性に癒やされてほしいなとも思います。
そして市川さんは現在、テレビ朝日開局65周年記念 木曜ドラマ『Believe-君にかける橋-』に北村晴彦 役で出演中です。
市川:本当に反響もすごいですし、作品としてもすごく骨太で重厚、かつ展開も速くて面白い作品になっています。そこに1キャストとして出られているのは本当に光栄だし、幸せだなと思っています。今まさに撮影をやっている最中なのですが、僕が出演している病院のパートは『Believe』という作品の中で、箸休めじゃないですけどちょっとホッとできるシーンになっているので、視聴者の皆様が一息つけるようなシーンとして成立させたいですね。
僕の役は若い男性看護師なんですが、天海祐希さん演じる看護師長にずっと「成長してほしい」って言われているので、僕の演じる北村がどう成長していくのか、その点も視聴者の皆様には見守っていてほしいなって思っています。
まだまだ言えないことも多いかと思いますが、市川さんから見た今後の見どころは?
市川:この作品の見どころは大きく言うと、正直に生きることの大切さだと思うんです。木村(拓哉)さん演じる主人公の狩山(陸)は、会社のために嘘をついて冤罪で服役してしまっている。その狩山が諦めることなく困難に挑み続けることで、真っ当に生きること、正直に生きることの大切さを感じられる作品だと思うので、観てくれている皆様にも共感できる部分が多いと思うんです。登場人物の心情にも寄り添いながら観てもらえたらより楽しめるかと思います。
この先も必ず面白い作品になるとスタッフの皆さんも信じているし、僕もそう思っているので、もう観てくださっている方はこの先も見逃さず、ワンシーン、ワンカットをしっかり観てほしいですし、まだ観ていない方もTVerなどでまだ観れると思うので、ここからぜひ追いついて観てほしいですね。
今後も舞台、映像共に市川さんのご活躍が楽しみです。最後に役者としての今後の目標を聞かせてください。
市川:「こんな役をやりたい」とか「こんな作品をやりたい」というのももちろんあるんですけど、一番は1年でも1カ月でも長く役者の仕事を続けていけたらいいなと思っていて。どうしても誰かに求められないとできない仕事じゃないですか。僕はこの仕事が好きなので、少しでも長くこの仕事をして、できる限り多くの作品に携わりたいです。
一つ一つの作品で自分の役を全うして、観てくださるお客さんの活力になったり、悪い役の時はちょっとムカついてもらったり(笑)、観ている人の感情をちょっとでも揺さぶることができるような役者でありたいなと思っています。
information
リーディングシアター「シャーロック・ホームズシリーズ」『緋色の研究』『四つの署名』
【原作】原作:アーサー・コナン・ドイル
【脚本・演出】毛利亘宏(少年社中)
【出演】
5月2日(木)19:00『緋色の研究』 矢崎 広 × 山脇辰哉
5月3日(金・祝)13:00『緋色の研究』 和田琢磨 × 矢崎 広
5月3日(金・祝)17:00『四つの署名』 和田琢磨 × 矢崎 広
5月4日(土・祝)13:00『緋色の研究』 中本大賀 × 池田 航
5月4日(土・祝)17:00『四つの署名』 中本大賀 × 池田 航
5月5日(日・祝)13:00『緋色の研究』 橋本祥平 × 矢崎 広
5月5日(日・祝)17:00『四つの署名』 矢崎 広 × 橋本祥平
5月6日(月・休)13:00『四つの署名』 古川雄輝 × 名村 辰
5月6日(月・休)17:00『四つの署名』 古川雄輝 × 名村 辰
5月11日(土)13:00『緋色の研究』 北村 諒 × ゆうたろう
5月11日(土)17:00『四つの署名』 北村 諒 × ゆうたろう
5月12日(日)13:00『緋色の研究』 鈴木浩文 × 納谷 健
5月12日(日)17:00『四つの署名』 市川知宏 × 鈴木浩文
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テキスト:田代大樹