ヒラタオフィスと、タカイアキフミ主宰のプロデュースユニット「TAAC」がタッグを組む第1弾公演「not only you but also me」が東京・劇場MOMOにて上演中だ(10月27日(日)まで)。
女子高校生の飛び降りによる巻き添え事故の“それまで”と“その後”を描く物語を通して、言葉ばかりの「多様性」が謳われる現代に潜むさまざまな“境界線”を描き出す。作・演出をタカイアキフミが手掛けた。
「Sparkle web」では飛び降りた生徒と巻き込まれた生徒が所属するクラスの副担任・与田駿介を演じる髙橋里恩にインタビュー。
タカイ作品には本作で3度目の出演となる髙橋に、台本を読んだ時の感想から稽古終盤に差し掛かる今の思い、さらに舞台に感じる芝居の魅力などを伺った。
interview
本作の台本を読んだ際には、どのような感想を持ちましたか?
髙橋:みんな向き合いたくないような重たい内容も含まれていると思うんですが、(作・演出の)タカイ(アキフミ)さんはそういうところから逃げずに、しっかりと向き合っている作品だと感じました。屋上から飛び降りてしまう生徒の周りの教師や保護者の方などが、それによってどう影響され、どう変わっていくか。そういったところからも逃げずに演じていこうという思いを持って今、挑んでいます。
タカイさんとご一緒するのは本作で3度目になりますが、演出家としての印象は?
髙橋:まず大前提として「普通にそこに立ってて」ということを言ってくださる方です。舞台に立つと「何かしなきゃ」と思ってしまいがちだと思うんですけど、「ただ普通に立って、そこから始めよう」というようなことを言ってくれるので、すごく素敵だなと思います。
髙橋さん演じる与田駿介は飛び降りてしまう生徒の副担任で、生徒や保護者に出来るだけ寄り添おうとする人物です。演じるにあたってどのようなところに気を付けていますか?
髙橋:与田も一人の人間なので、自分が担当していた生徒がそういう道を選んでしまったということに対して、並々ならぬ思いがあると思うんです。ただ、その思いとちゃんと向き合うことが出来ないのが人間らしいところだとも思うので、そこを繊細に、どうすれば人間らしくその場に立てるかということを日々研究して、色々と試しては調整して、と試行錯誤しています。
本作の稽古を通じてタカイさんから何か掛けられた言葉などはありますか?
髙橋:与田はとにかくその場をまとめようと空回りしちゃってる人間なんですけど、そこを面白おかしくではないですが、ちょっとお客さんが一息つけるような感じでやってほしいと。ずっと重いまま進めていくとお客さんも空気を吸えないというか、舞台として成り立たないから「そこはちょっと頼むわ」という風に言ってもらっています。
本作の登場人物はそれぞれ色々な裏テーマを持っているんですが、与田にももう少し抱えているものが無いと浮いてしまうからということで、稽古中にテーマを1個足してもらったんです。それは言ってもいいかな……? 「過去に自殺を試みたことがある」という設定を頂いたのですが、それでお話が大きく変わるわけではないんです。ただその設定があるだけで動き方、演じ方を考えやすくなったので、それは大きな発見でしたね。
本作が提示しているのは現代において本当に大事なテーマだと思うのですが、髙橋さんはどういった方々に、どういった届け方をしたいと考えていますか?
髙橋:滑稽なんですよね、遺された人たちって。けど、それでも遺された人たちは生きていくし、重い十字架を背負わされるじゃないですけど、重さというか、縛りというか……そういったものを抱えながらも生きていく。さっき言ったように今作の登場人物それぞれに裏のテーマがあるのですが、それを抱えながらも本当にただその場その場を生きようとしている、その連続からドラマが生まれると思うんです。それをお見せする、という思いでやっていますね。何かしらの“縛り”を感じて生きている人たちにちゃんと刺さる作品にしたいなと思っているので、ぜひ観てほしいです。
稽古中に得た新たな気付き、発見などはありましたか?
髙橋:今までは現場で最年少のことも多かったんですけど、今回は年下の子が多いです。タカイさんがいつもおっしゃっている「そこに立っていてほしい」という言葉の意味なども、自分が今まで経験したことや学んだことを少しでも活かせればと思い、共演者の皆さんと一緒に考えながらこの作品に向き合っています。
そういった稽古場での試行錯誤なども、映像作品とは違う舞台ならではの作り方かと思います。髙橋さんは映像作品への出演の方が多いですが、舞台の面白さ、難しさなどはどういったところに感じていますか?
髙橋:逃げられない。全部見られるので、本当に集中しないと何もかもがバレてしまう。やっぱりそういったところが好きなんだと思います、僕は。
それも稽古も本番も、どちらもですか?
髙橋:そうですね。
これまでの出演作を振り返って、ご自身にとってターニングポイントとなった作品などはありますか?
髙橋:岩松 了さん作・演出の、20歳の時に出た舞台(岩松了プロデュースvol.3『三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?』・2018年)が自分にとって重要でした。本当に大事な時間でした。
岩松さんの演出で具体的に印象に残っていることは?
髙橋:さっきの話にもありましたが、“ただ、そこにいるだけ”というのが本当に難しいんです。僕自身、舞台上で何かやろうとしてしまっていたんですが、岩松さんに指摘されたり、いろんな方が言われた言葉をしっかりと心で聞いて、感じ取って、“ただ、そこにいる”ということが大事なんだなと。そのことは今でもずっと自分の軸に持ちながら、いろんな作品に挑んでいます。
それはきっと映像でのお芝居にも還元できるものなのかと思います。
髙橋:絶対出来ると思います。
今後はどういった舞台作品に挑戦していきたいですか?
髙橋:今作「not only you but also me」もそうですけど、やっぱりみんな「これはこうだ」と決め付けることによって向き合わずに逃げているところがあると思うんです。そこを逃げずに、例えばLGBTQの役など、僕の肉体を通して生きて伝えたい、表現したいと思っています。
あとはもうすごくアウトローな、『仁義なき戦い』みたいな作品を復活させたいです。“仁義”とか“筋を通す”といったことは現代でも切っても切れないんじゃないかなって思うので、そういった作品にも挑戦したいです。
ありがとうございます。絶賛公演期間中ですが、最後に意気込みをお聞かせください。
髙橋:武骨に毎日生きる。与田も僕も、ですが。楽しみにしていてください。生きます。
information
ヒラタオフィス+TAAC「not only you but also me」
【日時】2024年10月18日(金)〜10月27日(日)
【会場】東京・劇場MOMO
【作・演出】タカイアキフミ
【出演】
伊藤歌歩、谷藤海咲、川嶋由莉、おくだかずな、髙橋里恩、山田キヌヲ
【チケット】
一般発売中
ローソンチケット
カンフェティ
www.nelke.co.jp/stage/theatre_ougon
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credit
テキスト:田代大樹
撮影:引地信彦