俳優生活10周年を迎える糸川耀士郎が、この記念すべき節目に自ら選んだ挑戦――糸川耀士郎 俳優10周年記念 1人音楽劇「夜啼鳥」が2025年5月14日(水)~5月18日(日)、東京・Theater Mixaにて上演される。
自らが企画プロデュースを務め、題材選びから密接に関わった本作にて、糸川は果ての無い渇望のままに芸術を追い求めるローマ帝国・第5代皇帝、ネロを演じる。
脚本・演出に中屋敷法仁、音楽監督にYOSHIZUMIを迎え、糸川自身「これを乗り越えないで、役者としての未来は無い」と語る未到の境地へ挑む。
「Sparkle web」では稽古前のタイミングで糸川に独占インタビューを実施。
本作への挑戦を「怖い」と表現していた糸川。しかし饒舌に本作の展望を語るその瞳は、この挑戦を乗り越えた頂からの景色、そしてその先の未来を期待する眩い光に満ちていた。

1993年5月28日生まれ、島根県出身。最近の主な出演作に、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ(浦島虎徹 役)、ミュージカル『ミセン』(チャン・ベッキ 役)、歌絵巻「ヒカルの碁」序の一手(主演 進藤ヒカル 役)など。2025年7月29、30日にミュージカル『刀剣乱舞』 目出度歌誉花舞 十周年祝賀祭(浦島虎徹 役)、9月12日よりミュージカル「黒執事」~緑の魔女と人狼の森~(フィニアン 役)への出演を控える。X(Twitter)
interview
「夜啼鳥」上演発表に際し、公式サイトにメッセージが掲載されましたが、「10周年という事で、晴れやかな気持ちでこの節目を迎えたいのですが、まだ僕にはやり残した事があります」、「これを乗り越えないで、役者としての未来は無い」という、非常に強い言葉が並んでいたのが印象的でした。
糸川:以前にも一度1人芝居をやったのですが(ひとりしばいVol.5 糸川耀士郎「LA・LA・LA・LIBRARY」・2020年)、あまりにも大変すぎて、その時は「もうやらなくていい」って思ったんです(笑)。本当に一人きりで演劇をしなければいけないという難しい壁に挑戦したことで、得るものもすごくたくさんあったのですが。
その後も色々な経験をさせていただく中で、何と言うか……、作品によってどうしてもさまざまな制限が生じてしまうのは仕方の無いことなのですが、そのために不完全燃焼というか、どこか出し切れずに現場を終えてしまうこともあったり……。そういったことを感じていた時に、もう一度1人芝居をやって、自分の思う“面白い演劇”を信頼するクリエイターの方々と作りたいという考えが自分の中に生まれたんです。10周年ということもあり、そういうタイミングでもあるのかなと。
そういう意味で、10周年をみんなでお祝いするお祭りというよりも、これまでの10年の恩返し、そしてこれからの役者としての自分の決意表明という意味も込めて、そういった言葉を掲載させていただきました。“腹を括る”というわけではないですが、ここから10年先はもっともっと険しい道のりだと思うので。
おっしゃる通り、祝祭でもある10周年の節目にこれだけ重厚な芝居を選ばれたというのは本当に衝撃的でした。以前の一人芝居「LA・LA・LA・LIBRARY」はコロナ禍真っ只中ということもあり、最少人数での演劇を無観客の劇場から配信限定で届けるものでしたね。
糸川:前回はどちらかと言えば、クリエイティブな発想からというより、難しいことにチャレンジしてみようかな?といった漠然とした思いから出演を決めた作品でした。「LA・LA・LA・LIBRARY」に限らず、無観客でやる演劇ってすごく寂しいものがあったし、やっぱりお客様に生で観てもらえないと一番重要な部分を埋められない、一番大切なピースが欠けているような気がしていましたね。そんな記憶が残っています。そこが今回の1人芝居とは大きく違う部分ですね。

現在(※取材時)は準備稿が上がった段階とのことですが、読んだ感想はいかがですか?
糸川:大まかな台本を屋敷さん(脚本・演出の中屋敷法仁)から頂いたところなんですが、漠然と「こういうものになるだろうな」ってイメージしていたものとは全然違っていて、やっぱり屋敷さんって本当にぶっ飛んでるなと思いました(笑)。これが屋敷さんの頭の中でどういう演出がついて、どういう見せ方になっていくのか。今でもまだどうなるのか想像つかないくらいで、なので本当に怖い気持ちもありますね。
さらに今回は音楽劇ということで、ここに歌が入ってくる。
糸川:そうですね。僕が1人芝居をもう一回やることになったら今度は絶対にミュージカルのような形にしたかったんです。なので歌は自分の中で外せなかったですね。でもまだそこも本当に想像がつかないです。音楽がどういう効果を、この屋敷さんの本にもたらすのか。もう、ちょっと未知すぎて、久々に「怖いな」と感じています。普段は台本を読んでイメージできないことはあまり無いので。僕が本当にこの作品を攻略できるのか、まだ不安に感じています。
全ての楽曲を一人で歌われるというのも、かなりのプレッシャーなのではないでしょうか?
糸川:もちろんプレッシャーはありますが、どちらかというと、僕はこれまでフラストレーションを感じる方が多かったんです。普段のミュージカルでは多くのキャストの方々がいて、登場人物によって物語に関わる立場が違ったりする中で、ソロ曲なんて1曲あれば良い方で、ソロ曲が無い時だってある。そうなると、もっともっといろんな歌に触れたいなと思うし、もっともっといろんな歌を歌いたい。そういった欲の方を最近は感じていたので、こうして1作品通して色々なタイプの歌を歌え、色々な心理描写を表現することが出来るというのは、とても贅沢で幸せなことだなと感じています。
お客様にとっても、糸川さんの歌うさまざまなタイプの歌を1作品で聴けるのは贅沢なことだと思います。
糸川:ありがとうございます。そうだったら嬉しいですね。

本作で糸川さんが演じるのは、ローマ帝国・第五代皇帝のネロ。ただひたすらに芸術を追い求めるこの人物を演じるにあたり、どう挑みたい、もしくはどう寄り添っていきたいと考えていますか?
糸川:今回、1人芝居をやるにあたり「どういうお話にしようか」とスタッフさん含め考えていて、そのキャラクターの人生がとても壮絶で、今の時代では考えられないような世界観のものにしたかったんです。お客様が日常を感じてホッとできるものよりも、すごいものを観て言葉を失ってしまうくらいの演劇がしたくて、そういう人生を送った人物って誰だろう?と調べた時に、ネロが候補として上がってきた。だからネロを演じるのはすごく楽しみです。今まで演じたことの無いような役柄でもあるので、役作りどうしよう?って考えているところですが……。屋敷さんの本が本当に想像の斜め上を行っていたから、今はそっちを考えるのでいっぱいいっぱいで……、難しいなって思っています。
それこそ本作は企画プロデュースを糸川さん自身が務めているということで、題材からご自身で選ばれていたんですね。
糸川:はい。とは言え、スタッフさんたちと話し合って「こういう人物はどうでしょう?」っていろんな人をピックアップして、屋敷さんも含めたディスカッションの中で最終的にネロの物語に決定した、といった経緯ですね。
素敵なビジュアルも発表されていますが、糸川さんはそちらにも関わっているのですか?
糸川:いえ、デザイン等はスタッフの皆さんが作り上げてくださったものなので、ビジュアルには僕はほぼ触れていないです。裸に毛皮のコートを着るというアイデアも、ネロがそういう格好をして楽しんでいたという史実に基づいて屋敷さんが提案してくださったんです。
企画立案の時点からご自身にとって未知なるものに挑む姿勢が伝わってくるのですが、ある意味“10周年公演”ならご自身の得意なものをお見せする内容でも問題なく成立するというか、お客様も十分納得されるものになると思うんです。そこであえてチャレンジングなものを持ってくるのが糸川さんらしいのかなと感じました。
糸川:ありがとうございます。例えば2.5次元の作品をやる時には一番大事にしていることなのですが、お話を頂いた段階で「あ、これは出来るな」とか、「自分はこのキャラクターとしてお芝居した時にちゃんと説得力を出せるな」とか、自分がそのキャラクターを演じているのをある程度イメージ出来るかどうか。原作のキャラクターに説得力を持たせられるのか、というのはすごく大切にしているところなんです。
だからこそ、ここまでどうなるか分からないという作品はこれまで無くて。それが自分の10周年をお祝いする演目であり、自分が企画段階から携わっている作品でもあり、大きな責任が自分にある演目なのにイメージが出来ないというのは、本当に怖いと感じています。でも、そんなことは無理かもしれないけど、お客様には一人残らず全員に楽しんでもらいたいので、そうなるように稽古に臨んでいきたいと思っています。


「夜啼鳥」の公演はもちろん、この挑戦を成し遂げた後の糸川さんも楽しみでなりません。
糸川:僕の中ではこの「夜啼鳥」はチャレンジの“第1弾”だと思っているんです。と言うのも、周りの役者の中にも「こういうことしてみたいんだけど、でも自分で踏み出す勇気が無いな」とか、「俺はこう考えるんだけど、今の演劇とかミュージカルの流れってこうだよな。ならそっちに従わないといけないのかな」みたいに考えている人が絶対にもっといると思っていて。「自分の考えていることって間違っているのかな? やっぱり大きな波に乗っておいた方がいいのかな」みたいな。
逆に、僕が「うわっ、この人めっちゃ素敵だな」とか、「あ、この人と一緒にお芝居したいな」って思うけど、たまたま一緒になるお仕事の話が無いと共演するのが難しかったりもする方々もいて。でも「夜啼鳥」をやったことで、そういう人たちとまた違う何かを一緒に作ったりすることも出来るかもしれないし、いろんなクリエイターの方とまた別の何かを作ってみませんか?という話が生まれるかもしれない。先のことは全然分からないですけど、そういったクリエイティブの“第1弾”という捉え方をしています。
「夜啼鳥」という作品はある意味、11年目からの糸川さんの名刺代わりになりそうですね。
糸川:そうですね。そうなってくれたらいいなと思います。

information
糸川耀士郎 俳優10周年記念 1人音楽劇「夜啼鳥」
【日程】2025年5月14日(水)〜5月18日(日)
【会場】東京・Theater Mixa
【企画プロデュース】糸川耀士郎
【脚本・演出】中屋敷法仁
【音楽監督】YOSHIZUMI
【出演】糸川耀士郎
【チケット】
当日引換券:発売中
詳細:公式サイト
当日券:各公演開演45分前より劇場窓口にて販売
【配信】
2025年5月16日(金)19:00公演
カンフェティ
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糸川耀士郎 掲載
『Sparkle vol.56』発売中

内容:立花裕大×糸川耀士郎 悪童会議 第二回公演 ミュージカル『夜曲〜ノクターン〜』
W表紙+巻末対談ロングインタビュー+ソロコラム&撮り下ろしグラビア
巻末綴じ込み付録:ツヤツヤ厚紙ピンナップ
credit
テキスト:田代大樹
撮影:松井伴実
スタイリング:ヨシダミホ
ヘアメイク:望月 光
©糸川耀士郎 俳優10周年記念 1人音楽劇「夜啼鳥」製作委員会