俳優の佐藤流司が初めて原案・脚本・演出を手掛け、自らも出演する舞台『カストルとポルックス』が2023年3月24日(金)に開幕。
主演を務めるのはTHE RAMPAGEパフォーマーの藤原 樹で、同グループから龍も参加。
さらに新谷聖司、田村升吾、山﨑晶吾、うえきやサトシ、中村誠治郎、北園 涼といった、佐藤と親交も深い役者たちが名を連ねた。
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本作では、戦争や環境汚染によって人類が地上から姿を消した西暦2045年を舞台に、地下シェルターで生活する人々の姿が描かれる。
主人公・総司(藤原)と弟の翔(新谷)は、貧民街の近くにあるオンボロアパートで肩を寄せ合い暮らしているが、治安を乱す恐れがある者たちを取り締まる「町の平和を守る委員会」に目を付けられてしまう……そこから物語は展開していく。
兄弟の日々の暮らしを支えるのは総司で、学生でありながらもアルバイトをして翔とギリギリの生活を送っていた。ただどんなに貧しくても、翔が喜ぶプレゼントを用意したり、帰ってくれば翔が眠るまで遊んだりと、辛い素振りなど一切見せない総司の姿はたくましい。
喧嘩っ早い総司だが、どこまでも弟思いで仲間思いの優しい青年なのだった。
そんな総司の前に立ちはだかる仮面の集団、「町の平和を守る委員会」。
委員会を先導する東雲修太(龍)と霊 誠也(佐藤)は、日頃から貧民街でガラクタ売りをしている鷺沼(中村)を目の敵にし、姿を見つけては難癖をつけていた。
何かと兄弟を気にかけている鷺沼は、自分に向けられた目が総司たちに向くことを危惧しているが……。
総司とつるむ仲間として、一条犬御(北園)、雉岡久遠(山﨑)、猿渡遼斗(うえきや)というユニークな3人が登場する。彼らは総司と喧嘩(という名のじゃれ合い)を楽しむ友人たちで、翔を自分たちの弟のように可愛がり、総司を家族のように大切にしてくれる仲間でもある。
全くタイプの異なる3人だが、なぜかウマが合う。個性溢れる学ランの着こなしや、それぞれのイメージカラーに合わせた服や靴紐の統一感も魅力的だった。
さらに総司の隣には津田洋介(田村)の姿も。津田は「○○でござる」という特殊な口調で話すキャラクターだが、その口調になったのにはある“きっかけ”があり……。
総司を心から尊敬し、どんなことでも力になってあげたいと口にする津田のまっすぐさは、総司を取り巻く辛く苦しい環境の中で大きな救いとなっている。
初日前会見で、佐藤が初の脚本制作について語った。
「どういうお話にしようか企画を考えたのが(昨年の)3月ぐらい。7月頃から本格的に脚本を執筆し始めました。そして約1カ月の稽古期間を経て、本日に至ります。
半年近く、台本を書いては消してを繰り返しました。ただ今回間違いなく言えるのは、この作品はドラマでも映画でもなく、“舞台”でやるからこそ意味があるんだということを実感してもらえるものになったということです」
その言葉通り、舞台だからこそできる演出が本作には多分に盛り込まれていた。
例えばそれは、ふんだんなアクションシーン。“生”のぶつかり合いに画角などは存在せず、観る場所場所から登場人物たちの物語を目撃できるのが舞台の醍醐味の一つであると再確認できた。
また、魅力的なステージングと照明の使い方に着目できることも舞台ならではだろう。高低差のあるセットを活かしたダイナミックなアクションや、場面ごとに表情を変えるライティングなど、その一つ一つに“観る楽しさ”が絶えない。
うえきやが「台本を読ませてもらったら『俺だな』と思いました。流司とはプライベートでも付き合いがあるので、俺のことを全て知っているんですよ。この役には“うえきやサトシイズム”が入っています」と会見で発言したように、本作には当て書きされた部分もあるのではないだろうか。
そう思わされるくらい、それぞれの役者の良さが活かされる配役がなされていたと感じた。
そしてそう感じた時、本誌『Sparkle vol.51』で佐藤が語っていた言葉を思い出した。
「より自分らしく演じられる作品をやることで、“自分が演じている意味”みたいなものに改めて向き合っていくことができる」、「人間は自分の引き出しの中でしか100%演じることはできないという意味で、もっと自分の引き出しを増やしていく作業もそうだし、自分にとって何が得意で何が不得意なのかを見つけ出していくことが必要」というものである。
役者である佐藤が作り手にもなり、執筆や演出をする中で、その役をいかに“この役者にしかできない”と思わせるかということも、もしかしたら考えていたのではないかと思った。
もちろんそう思わせるのには各役者の演技力に委ねられる部分が多いと思うが、それぞれの役柄のハマり具合や、一人一人の強みを生かしたキャラクター性や演出、そして何よりも楽しそうに芝居をする役者陣の表情を見ていてそう感じた。
光と闇のコントラストが強い総司というキャラクターは、これまで藤原が演じたことの無いタイプの役どころだったと思うが、彼がこれまでの出演作で培ってきた演技力やアクションの技術が喧嘩のシーンで遺憾なく発揮されていたのはもちろん、ステージでの自分の魅せ方を心得ているパフォーマーとしての一面を持っている藤原だからこそできる“華のある芝居”だったと思う。
初主演作となった本作だが、求められた“真ん中”をしっかりと飾れる藤原の実力の高さと、豊かな表現力をぜひ目撃してほしい。
また、藤原と同じくTHE RAMPAGEで切磋琢磨する龍も、非常に難しい役どころを演じてみせた。修太は、誰にも言えない気持ちを秘めながら一人葛藤している男。たびたび冷徹な言葉を放ったり、怒号を浴びせる芝居の迫力に驚かされる。
複雑なバックボーンを持った彼が抱えるものとは……? なぜ総司を追い込むのか、その行方をぜひ舞台で見届けてほしい。
また、龍自身の大きな体躯を活かした派手なアクションも必見。肩にかけた軍服の上着がはためく姿が美しかった。
それは同じ組織に身を置く誠也にも言える。佐藤の高速パンチと回し蹴りのフォームは非常に綺麗で見ごたえ抜群。
そしてどうやら誠也にも抱えるものがあるようで……?
場を和ませるパワーを誰よりも持っている、うえきやによるチャレンジングなアドリブシーンにも注目。シリアスな展開の中でもホッとできるひと時を作り上げてくれた。
また、犬御と久遠とのバランスも素晴らしい。雰囲気が非常に良く、テンポのいいやり取りにクスッとできるのはもちろん、アクションも流石の3人。喧嘩の型が違うのもそれぞれのキャラクターの性格を表しているような部分も感じられて楽しかった。
さらに、中村や田村の殺陣シーンも見どころたっぷり。殺陣ユニット・HoriZonEでも活躍する中村の動きはどこまでも丁寧で、俊敏。時に先生のように、時に兄のように総司たちに接してくれる頼れる存在だった。
田村も近年長らく殺陣と向き合ってきた彼だからこその動きを見せ、倒れてもへこたれない、不屈の精神を宿した津田というキャラクターを好演した。
本作のキーパーソンにもなっていた翔を演じた新谷の瑞々しい芝居も素晴らしかった。どの瞬間も星のようなきらめきをもって存在していて、まばゆかった。
会見時に「一家に一人いてほしいと思ってもらえるように」と意気込んでいた新谷の言葉のまま、きっと見た人の多くが「そばにいたら」と願う存在になっているのではないだろうか。
ストレートに分かりやすく、家族愛や友情の尊さ、そして自己との葛藤も描いた本作。セリフや演出、どこを取ってもロマンチックな舞台だったと感じる。
上演は4月2日(日)まで。最終日にはライブ配信やアーカイブ配信もあるので、ぜひ触れてみてほしい。
information
『カストルとポルックス』
【日程】2023年3月24日(金)~4月2日(日)
【会場】東京・品川プリンスホテル ステラボール
【原案・脚本・演出】佐藤流司
【出演】
五十嵐総司 役:藤原 樹(THE RAMPAGE)
五十嵐 翔 役:新谷聖司
津田洋介 役:田村升吾
雉丘久遠 役:山﨑晶吾
猿渡遼斗 役:うえきやサトシ
東雲修太 役:龍(THE RAMPAGE)
鷺沼 役:中村誠治郎
一条犬御 役:北園 涼
霊 誠也 役:佐藤流司
【チケット】
公式サイト
【配信】
2023年4月2日(日)13:00公演
終演後生コメント:藤原 樹/龍/佐藤流司
2023年4月2日(日)18:00公演
終演後生コメント:藤原 樹/北園 涼/佐藤流司
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castorpolluxstage.com
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テキスト・撮影(一部写真除く):田中莉奈
©カストルとポルックス製作委員会