“君たちには、この戦争を正しいと思わせてほしい
そのための手段は問わない”
舞台「プロパガンダゲーム」が東京・新宿のサンモールスタジオで上演中だ(8月28日まで)。
白又 敦、松島勇之介、白柏寿大、松田昇大らの若手俳優が2チームに分かれ、それぞれがメインを務める2バージョンを交互に上演する形式をとる本作のステージレポートをお届けする。
report
大手広告代理店「電央堂」の最終面接に訪れた男女8人の大学生。独特の緊張感が室内を包む中、彼らに課せられた最後の課題は、仮想国家の国民たちを“宣伝”によってコントロールし、他国との戦争に導けるかどうかを競う「プロパガンダゲーム」。
学生たちは、戦争を起こしたい「政府チーム」と開戦を回避したい「レジスタンスチーム」に分けられ、さまざまな広告手法で国民に各々の主張の正しさを訴えてゆく。最終的な勝敗は“戦争賛成/反対”の2択を問う国民投票により決定。ただし、勝敗は直接選考結果には影響しない――。
学生たちはこの特殊な選考方法に面食らうも、くじ引きにより2チームに分けられ、政府チームは“官邸”へ、レジスタンスチームは“アジト”へ、それぞれの部屋へと移動してゆく……。
ここまでが舞台「プロパガンダゲーム」の冒頭だ。しかしここから物語は2ルートへと分かれてゆく。
政府チーム側から描く「side:Government」と、レジスタンスチーム視点の「side:Resistance」。本公演はこの2バージョンを交互に上演するスタイルをとっているのだ。
「side:Government」では政府チームの4人を軸に、敵国が我が国にとってどれほどの脅威たりうるか、この戦争の大義名分を証明せんとする姿が描かれる。
「side:Resistance」ではレジスタンスチームに焦点を当て、政府の目論みを打ち砕くべく奮闘する4人側の視点で物語が進んでゆく。
そして「side:Government」上演時にはレジスタンスチームの4人が、「side:Resistance」上演時には政府チームの4人が、ガラスで区切られたステージの奥から反論を仕掛けたり、最終的に勝敗を決定する国民たちの声を演じる。舞台という限定された空間を上手く使った演出に、自ずと引き込まれてゆく。
戦争の理由は我が国と敵国の間に浮かぶ島の領有権を巡るもの。どこか現実を想起させるような設定だが、学生たちは「これはあくまでも『ゲーム』」と、この知的な思考実験にのめり込んでゆく。
彼らを一喜一憂させるのは国民のリアクションだ。
例えばレジスタンスチームが「こんな小島に争ってまで守る価値は無い」という証拠を出せば、ゲーム内で使われているSNS上は賛同する国民の声で溢れる。
対する政府チームが“広報官”として美男子の学生を起用すれば、女性国民からは「イケメン!」「もっと見たい!」などの黄色い歓声が飛び交う。
そう、国民を動かすのは正しい情報だけではないのだ。その情報がいくら正しいとしても、自陣に不利になりそうなものは伏せられる。そして両陣営が繰り出すのはイメージ戦略、相手の主張への論破、繰り返されるキャッチフレーズ……。
両チームが扇動するたびに、戦争賛成/反対の間で揺れ動き惑乱する大衆。
彼らの声が、学生たちをさらなる“熱狂”へと駆り立ててゆく。
やがて両者がヒートアップするにつれ、戦争を正当化するための材料はよりグロテスクなものになり、戦争を否定する声はよりヒステリックなものとなってゆく。
“ゲーム”であることを忘れ、激昂する者、泣き叫ぶ者、打ちひしがれる者。
果たして、この選考の本当の目的は何なのか。そして、勝敗の行方は――。
この結末はぜひ劇場にて目撃してほしい。
本作はもちろんどちらか1バージョンだけ観ても楽しめるが、もし可能なら両バージョンともご覧いただきたい。
政府チームとレジスタンスチーム、戦争賛成側と反対側、双方の視点から物語を観ることで得ることのできる情報量は、単純な“1+1”にとどまらないからだ。
多様な視点で物事を観ることの重要さ。頭では分かっていても実践は難しいのではないだろうか。
本作ではさまざまなキャラクターの学生たちが悩み、ぶつかり、苦しみもがきながらもそれぞれの答えを出してゆく。そしてその行方を固唾を飲んで見つめる我々観客も、劇場という一つの空間で彼らと共に悩み、考え、揺れ動くことだろう。あるいはそれは劇場を出てからも続く永遠の問いかもしれない。
しかしそれこそが、本作に散りばめられた今この世界を覆うさまざまな問題に対抗しうる、唯一の答えなのかもしれない。演劇というダイナミズムをフルに用いたこの挑戦的な作品、そしてそれを演じきった役者の皆様に心から拍手を送りたい。
information
舞台「プロパガンダゲーム 」
【日程】2022年8月11日(木・祝)~8月28日(日)
【会場】東京・サンモールスタジオ
【原作】 根本聡一郎『プロパガンダゲーム』(双葉文庫)
【脚本・演出】春陽漁介(劇団5454)
【出演】
side:Government:松島勇之介、松田昇大、宮崎理奈、及川詩乃
side:Resistance:白又 敦、白柏寿大、出口亜梨沙、高嶋菜七
窪田道聡/榊木 並/森島 縁
www.mmj-pro.co.jp/propaganda-game
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credit
テキスト:田代大樹