翻訳劇という枠組みを軽やかに飛び越え、“日常”の機微を繊細に映し出す舞台「Private Fears in Public Places」が、東京・シアター代官山にて2026年5月24日(日)まで上演中。
客席と舞台の境界を曖昧にした演出、52ものシーンが目まぐるしく切り替わる構成、そして2チームでの上演により全く異なる表情を見せる贅沢な試みも話題を呼んでいる。
「Sparkle web」では公演開幕後のタイミングで、不動産業者のスチュワートを演じる稲垣成弥に単独インタビューを実施。
本作ならではの“日常を演じる難しさ”や、幕が開いたことで見えてきた変化、共演者たちとの関係性、そして本作に込められた想いを聞いた。

1990年5月11日生まれ、北海道出身。滝川市ふるさと大使。最近の主な出演作に、MANKAI STAGE『A3!』シリーズ(伏見 臣 役)、『Paradox Live on Stage』シリーズ(征木北斎 役)、Action Stage「エリオスライジングヒーローズ」シリーズ(キース・マックス 役)、Groovy Stage「ブレイクマイケース」(新開 戦 役)など。2026年7月3日よりAction Stage「エリオスライジングヒーローズ」-New Dawn-(キース・マックス 役)への主演を控える。X(Twitter)
interview
本日は公演後に取材のご機会を頂き、誠にありがとうございます。先ほど公演を拝見しましたが、「翻訳劇」という言葉のイメージから受ける、とっつきにくさや敷居の高さが全く無くて。いい意味で、とても入りやすく観やすい舞台だと感じました。
稲垣 本当ですか? 嬉しいです。演出の元吉(庸泰)さんもおっしゃっていたんですが、本作の時代背景や、物価やマンション市場の上がり方などの経済状況みたいなところは、今の日本と似ている部分があるんです。それで入りやすいと感じていただけたのかもしれないですね。
そして本作で描かれているのは、とにかく“日常”なんですよね。日常すぎるくらい日常で、そんなに大きな出来事が起こっているわけではないんです。事件が起こってはいるんですが、でも、想定の範囲外ではないというか。想定内の事件、事件というより問題があって、それを自分なりに解決できるのか、できなかったのか、という、それぞれの人生が描かれている。
演じるのが日常すぎるからこそ、最初は「難しいな」と感じていました。会話劇なので、何も引っかかりが無いままいくと、スルスルスルッと終わって、気付いたらカーテンコール、みたいな作品にもなりかねないなと。だからこそ、元吉さんとも色々とディスカッションしましたし、チームのみんなでも結構話しましたね。
皆さんでたびたびお食事にも行かれたそうですね。
稲垣 そうですね。それこそ、はじぴょん……(駒田)一さんですね。一さんから「はじぴょんって呼んで」って言ってくださったんですけど(笑)。一さんや彩輝(なお)さん、原田優一くんら先輩方からご飯に誘っていただいて。もちろんお芝居の話もするんですけど、それ以外にもいろんな会話をさせていただきました。そういう中で、チームとしての関係性や親密さが育まれていったと思います。先輩方がそういうフランクな空気を作ってくださったので、本当にありがたかったですね。



初日を迎え、すでに数公演を行ったタイミングですが、幕が開いてから変化した部分や進化した部分はありますか? 観客が入ったことによりこう変わった、など。
稲垣 正直、今回のお芝居はゲネでようやく「通った」、「筋道が出来た」という感触がありました。稽古の時点でも通ってはいるんですけど、どこか無理やり通しているような感覚があったんです。でもゲネでようやく一本通った感触を掴めて。「あっぶね、セーフ!」と一安心したのを覚えています。
引っかかっていたものが、ストンと腑に落ちたような?
稲垣 引っかかっていたというより、「なんで、あそこの感情までいけないんだろう」という感覚でした。今作って、正直、僕一人ではどうにもならない作品なんです。僕の演じるスチュワートは、周りから何かを飛ばされて、それに対して吐き出すこともせずに耐えて、その影響をただただ受けるだけといった役で。こんなに受け身で、自分だけではどうにも出来ないような役は初めてかもしれないです。
でも僕も含めてやっぱり皆さん、“役者”なんですよね。舞台に立って、照明が入って、お客さんが入ることにより、一段階“上がる”というか。その相乗効果でやっとたどり着けたような感覚がありました。
受け身な芝居だからこそ、相手の芝居に呼応して作っていく部分が大きいんですね。
稲垣 本当に、「こんなに人任せでいいのか?」というくらいで。さっき「ゲネでようやく通った」と言いましたが、回によってはその通りにいかない時もやっぱりあるんです。でもそれは悪い意味ではなくて、それを超える時もあるし、「今日はここには届かなかったけど、こっちには行けたな」と思う時もあります。

開演前から役者の皆様が劇場内にいらっしゃって、客席を歩いたり、普通にお話しされていたりしたのも面白い試みと感じました。本当に日常の延長線上に本作のお芝居があるんだな、という印象で。
稲垣 すごいですよね(笑)。元吉さんとは今回で3作品目なんですけど、ものすごく演劇が好きで、とても素敵なアイデアを持っている方なんです。でもお客さんがいらっしゃる客席に始まる前からいるというのは、最初はやっぱり戸惑いましたね。5分前くらいからうろちょろして、お客さんにも見られていて、こっちも見ていて。いわゆる「今から始まります!」という合図が無く、その空気感のまま芝居が始まるので、なんだか心地が良くて面白いですね。
だから通常の、舞台と客席との境界線はもう無いですよね。客席の後ろまでが舞台、みたいな感覚です。
出演者が舞台袖にはけず、舞台の後方、観客から見える位置に待機しているのも印象的でした。そこの境界線もとっぱらったのか、と。
稲垣 そうなんです。そして後ろでは何をしていてもいいんです。ずっと演技を続けている人もいれば、そうじゃない人もいて。元吉さんからは「ご飯を食べていてもいいし、携帯をいじっていてもいい」と言われています。実際にいじる人はさすがにいないですけど(笑)。
遊んでいてもいいし、芝居を観ていてもいいし。なんなら後ろではなく、客席に座って観ていてもいい、みたいな。
面白いですね!
稲垣 面白いですよね。ただ、結構みんな頻繁に出ているので、客席にいたら戻って来れないかもしれないですが(笑)。
おっしゃる通り、シーンが頻繁に移り変わるのも本作の特色の一つ。演劇というよりは映像作品のカット割りに近い印象を持ちました。
稲垣 映画っぽいですよね。全部で52シーンあるんですよ、すごいですよね。目まぐるしくシーンが変わっていくのも面白いなと。
更に今作の注目ポイントとして挙げられるのが、2チーム体制での上演です(◆チーム:駒田 一、彩輝なお、原田優一、増田有華、稲垣成弥、冨川智加、★チーム:鈴木壮麻、樋口麻美、塩田康平、音 くり寿、田中尚輝、山本咲希)。
稲垣 自分がやっている作品を、同じ期間に外から観る機会って、なかなか無いと思うんですよ。★チームの初日を観に行かせていただいたんですけど、作品のテイストが全然違うんです。台本は全く同じなのに、人が変わるとこんなにも変わるのか、というくらい違う。誤解を恐れずに言えば、「変なの」って思いました(笑)。もちろん悪い意味ではなくて、「すごいな」という意味で。
その違いを元吉さんが「良し」として、すり合わせを行わなかったこともすごいなと思います。★チームと◆チーム、普通は一つにまとめようとすると思うんです。照明さんなどのキッカケも変わってくるだろうし、なるべく2チームで同じ動線を取って、同じミザンスで、とした方が効率的じゃないですか。でも、そうしなかったんですよね。
動線やミザンスも違うんですか!?
稲垣 そうなんです。役者が自由に動いていいんです。もちろん「このシーンではここから入ってくる」みたいに決まっているところもありますが。それでも今作を同時期に二つのベクトルで作り上げた元吉さんは本当にすごいなと思います。2作品を同時に作っているのと一緒ですよね。とんでもないことしているなって思いました(笑)。
二つのチームで全く違う演じ方をしているからこそ、◆チームと★チームで並行して上演している意味があるのかもしれないですね。
稲垣 すごくあると思います。両方観ることで、また解像度が上がったり、「ここってこういうことなんだ」と理解度が深まるシーンもありますし。★チームの皆さんもすごく素敵なキャストなので。★チームでスチュワートを演じている田中尚輝さんも素晴らしい役者さんですし、それこそ◆のダン、ニコラを演じるはじぴょん、彩輝さんと、★の(鈴木)壮麻さん、(樋口)麻美さんの関係性もまた違う。面白いです。
とても贅沢な試みですよね。
稲垣 本当に贅沢だと思います。

1カ月のロングラン公演ですが、千穐楽を終えた時に、稲垣さんはどんなものを得ていると思いますか?
稲垣 どんなものを得ているんだろう……。まだ分からないですが、ここまで受け身のお芝居をする役はこれまで無かったので、これから公演を重ねることによりどうなっていくんだろうな、とは思います。
千穐楽を迎えた時に何を思っているんでしょうね。本作でのスチュワートって、一周回って元通り、そこに少しプラスアルファがある、みたいなキャラクターだと思っているんです。いろんなことがあって、右往左往して。でも、それは端から見たらそんなに大きな出来事じゃないかもしれない。失ったものもあるし、得たものもある。でも正直、そんなに変わってはいない。だから、「何がゴールなんだろう?」と思いながら模索していました。
それこそ元吉さんがよく言っていたのは、この作品を観て、「誰かに電話をしよう」とか「買い物に行こう」とか、「今日ちょっと外を歩いてみよう」と思ってくれたらいい。ちょっとした何かが変わってくれればいい、ということで。その言葉を聞いて「本当にそうだな」と思ったんです。何かを変えたい、という時の“何か”が、大きなものでなければいけないのかな?って。漠然と大きなものを変えるとか、世界を変えるとか、そういうことではなくて、例えばバーのシーンでお酒を飲んでいるのを見て、「今日お酒飲みたいな」と思った、でもいい。
それを表す言葉として分かりやすいのが、「誰かに電話をしてみよう」なんだと思います。この作品を観て、「これ面白かったよ」と誰かに電話する。それだけでも多分、運命の分岐は変わっているんですよね。この作品が与えたことで何か行動が変わったり、運命が変わる。それを大きく捉える人もいれば、小さく捉える人もいる。何も変わっていないかもしれないけど、「誰かに電話しようかな」、「今日お酒飲みたいな」と思ってくれるだけでもいい。
元吉さんはそんなことをおっしゃっていて、僕もそういう風になればいいなと思って日々演じていますね。
素敵なお話をありがとうございます。個人的には上質な映画を一本観たような感覚がありました。
稲垣 ああ、嬉しいです。ありがとうございます。

information
「Private Fears in Public Places」
[東京]2026年4月24日(金)~5月24日(日)@シアター代官山
作:アラン・エイクボーン
翻訳:小田島創志
演出:元吉庸泰
出演:駒田 一・鈴木壮麻/彩輝なお・樋口麻美/原田優一・塩田康平/増田有華・音 くり寿/稲垣成弥・田中尚輝/冨川智加・山本咲希/畠中 洋(声のみ)
ピアノ:伊藤祥子
公式サイト
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稲垣成弥 掲載
『Sparkle vol.62』発売中

永山たかし×KIMERU×鯨井康介/稲垣成弥×吉澤 翼×牧田哲也×二葉 要
ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』コンサート Rails Live 2025
座談会インタビュー+ソロコラム&撮り下ろしグラビア
+巻末綴じ込み付録 つやつやピンナップ
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テキスト・撮影:田代大樹
衣裳:喜多優介
